株式会社日成化学

赤錆(ヘマタイト)のマグネタイトへの変換における磁気の効果

群馬大学 黒田正和
群馬大学 張  欣
(株)日成化学 山上利一
要 旨
 赤錆(ヘマタイト)のマグネタイト(黒錆)への変換における磁気の効果について、流通系で実験的に検討した.また、ヘマタイトのマグネタイトへの変換過程を15日ごとにX線回折法により分析し、変換機構を検討した.試料は錆鉄板、ヘマタイト及びマグネタイト試薬(粉末)などを使用した.磁気強度は約300mT、使用した水はイオン交換蒸留水、流速は2m/sとした.液の温度は21℃→39℃、DOは7.5mg/L→5.2mg/L、pHは5.4→8.5と時間の経過につれ変化した.錆鉄板に付着した赤錆は、30〜45日後に水和酸化鉄と黒錆の混合物に変化し、およそ90日後に完全に黒錆になった.一方、へマタイト試薬(粉末)スラリー、マグネタイト試薬(粉末)スラリーでは、へマタイト及びマグネタイトの変化は全くなかった.赤錆から黒錆へ至る反応には、Fe2++8FeOOH + 2e- →3Fe3O4+4H2O, Fe2O3+6H+ +2e‐→2Fe2++3H2O, Fe+2Fe3+ →3Fe2+ などの反応が関与すると考えられ、ローレンツ効果により生じる電流は、これらの反応の電子供給源となり、ヘマタイトのマグネタイトへの変換を促進すると考えられた.

キーワード:磁気効果、脱錆、防錆、磁気処理


1.はじめに
 導水管のスケール防止や防食に磁気処理器が利用され、高い処理効果が得られている.その一方で、磁気処理器を設置してもこれらの目的が達成できない場合があり、スケール防止や防食に対して安定した磁気処理器の効果を得るために、磁気のこれらの現象に対する作用について種々研究されてきた.スケール防止ではCaCO3やCaSO4の結晶の析出抑制、結晶成長に対する磁場強度、溶存イオンの影響及び結晶成長を抑制する機構1)〜8)が研究されている.また、金属の防食・脱錆に対しても磁場の影響が種々研究され、防食機構について検討されている9)〜16).しかしながら、磁場の作用や効果は必ずしも明らかになっていない.
 鉄管の脱錆及び防錆は、基本的に鉄表面あるいは鉄表面の付着錆(赤錆:ヘマタイト)をマグネタイト(黒錆)に変化させる、即ち不動態化させることにより達成されると考えられる.したがって、脱錆・防錆に対する磁気処理器の効果の研究では、ヘマタイトのマグネタイトへの変化における磁場の影響を明らかにすることが重要である.本研究は、付着した赤錆の不動態化における磁場の影響について、内面の錆びた鉄パイプなどを試料として磁気処理器を用いて実験的に検討し、付着錆(赤錆(ヘマタイト))のマグネタイトへの変化過程をX線回折法で分析し、その変化の機構についても検討を行った.

2.実験装置及び方法  
図−1に処理フローの概略を示す.処理フローは、図−1aに示したように、循環ポンプC、流量計D、磁気処理器(MTD、(株)日成化学製で磁束密度約300mT)@、試験用管A及び貯水槽(5リットル)Bで構成し、各ユニットは透明のプラスチックパイプEで接続した.また、試験用管と磁気処理器は連続するように接続し、磁気処理器前のおよそ1.2mは直管として流れの乱れがないようにした.なお、比較のため図−1bに示したように磁気処理器を設置しない場合についても、同時に併行して実験を行った.試験用管は内径0.0254m、長さ0.3mで、図−2に示すように管の一部を試料が入るように切り欠きを作った.切り欠きは試料を時間の経過につれ連続的に取り出せるように、図のように8個作製した.試料の大きさは2x3cmで、管内面が錆びた水道用鉄管(内径0.0254m)から切り出して作製し、試料の錆面を試験用管内面に合わせて固定した.磁気処理器(MTD)の中の磁石は長さ0.15m、幅0.02m、厚さ0.01mで、管(内径0.0254m)の外表面に図‐2のように密着させた.

図−1 実験装置

図−2 試験用管

使用した水は、イオン交換蒸留水を曝気して溶存酸素を飽和させた.初期水温は21℃で、溶存酸素濃度(DO)は7.4mg/L、pHは5.4であった.管内循環流量は、磁気処理器内の液流速が2m/secとなるように調節した.水温、pH, 酸化還元電位(ORP)、DOの経日変化を連続して測定した.赤錆(ヘマタイト)の黒錆(マグネタイト)への変化過程は、15日毎に試料を試験用管から取り出し、試料の内面の錆を剥離して採取し、錆の組成をX線回折法により分析した.また、剥離した錆を細かく粉砕し、磁石に付着した量を測定し、マグネタイトとヘマタイトの割合を求めた.さらに、図−1aで試験用管に試料を設置しないでヘマタイト微粉末(試薬特級)、マグネタイト微粉末(試薬特級)及び水道用鉄管内面の錆を削り取り、ミルで粉砕した錆微粒子試料をそれぞれ懸濁させたスラリー(浮遊固体濃度5g/L)を循環させ、これら試料の鉄酸化物の組成変化過程をX線回折で分析した.実験条件をまとめて表1に示した.

試料 MTD設置 MTDなし
試料(錆鉄板) Run1 Run5
ヘマタイト微粉末 Run2 Run6
マグネタイト微粉末 Run3 Run7
剥離錆の粒子 Run4 Run8

      表1 実験条件

3.実験結果及び考察
 
3.1赤錆の磁気処理による変化の観察
3.1.1 試料(錆付き鉄板)

 ポンプを作動し管内水流速を2m/secとして、水を連続循環させた.磁気処理器を設置したRun1では、最初水の色は無色透明であったが、9日経過した頃から水の色は赤みをおび、約11日経過した頃から貯水槽中に黒い微粒子が見られた.処理時間の経過につれ貯水槽中に黒い微粒子の沈殿が見られ、その沈殿量は増加した。25日経過した頃から循環水の赤色は少しずつうすくなり粒径約1mmの大きな黒い粒子の沈殿が見られた.さらに、時間が経過し約66日後になると、循環水は赤色から再びほぼ透明になった.貯水槽中の黒い微粒子の沈澱は顕著となり、取り出した試料の内壁面の赤錆は見られず、黒い生成物で覆われていた.これに対して、磁気処理器を設置しないRun5では、循環水の色は9日経過した頃から赤みをおび、時間の経過につれ赤色になった。実験開始後45日から95日経過した後も、循環水は赤色のままで変化は見られなかった.
3.1.2 ヘマタイト試薬、マグネタイト試薬及び剥離した錆微粒子試料
 ヘマタイト(試薬特級)微粉を浮遊させたスラリーの実験では、磁気処理器を設置したRun2及び磁気処理器を設置しないRun6ともにスラリーの色は最初から赤色で、30日経過しても色の変化はなく、赤色であった.マグネタイト(試薬特級)微粉を浮遊させたスラリーの実験では、磁気処理器を設置したRun3及び磁気処理器を設置しないRun7ともにスラリーの色は黒く、実験開始後30日経過してもスラリーの色は変化しなかった.錆微粒子を浮遊させたスラリーの実験では、磁気処理器を設置したRun4では、スラリーは最初赤色であったが、実験開始後5日経過した頃から赤色はうすくなった。12日経過した頃からは、貯水槽に黒い微粒子が見られ、さらに25日経過した頃から大きな1mm程度の黒い粒子の沈殿が見られた.しかし、磁気処理器を設置しないRun8では、30日経過してもスラリーの色は赤色で変化しなかった.

3.2 磁気処理によるDO、pH及びORPの変化
 管内循環水の温度、溶存酸素濃度(DO)、pH及び酸化還元電位(ORP)の経日変化を図−3に示した。水の温度は、循環ポンプの発熱で、磁気処理器を設置した場合も設置しない場合も時間の経過につれ同様に上昇し、33日後に約39℃で一定となった.pHは、磁気処理器を設置したRun1では初期のpH=5.4から時間の経過につれ次第に上昇し、およそ18日後にpH=8.4、35日後にpH=8.5で一定となった.一方、磁気処理器を設置しないRun5では、pHは時間の経過により上昇する傾向が見られたが変化は小さく、10日後にpH=6.2で一定となった。DO及びORPは、磁気処理器を設置したRun1では、実験開始後次第に低下し、DOは31日後に約5.2mg/L、ORPは20日後に約230mVで一定となった.このORPの変化は、液のpH変化の影響が一因と考えられた.一方、磁気処理器を設置しないRun5では、DOは時間の経過につれ少し低下し、およそ15日後に7.0mg/Lで一定となり、ORPはほとんど変化しなかった.
 このような磁気処理器の設置によるpHの上昇及びDOの低下は、溶存酸素の他のイオンとの反応や還元反応が影響していることが考えられる.液のpHやDOの変化について、千葉らは蒸留水のDO濃度変化に対する磁場の影響を検討し、磁場のある場合は磁場のない場合に比べ24時間後にはDO濃度は増加したと報告しており12)、磁場による酸素吸収速度の増大を示唆している.本研究では、使用している溶液は異なるが、千葉らの結果を考えれば、磁場がある場合のDO濃度は、磁場のない場合と比較し大きくなると考えられる.しかしながら、図−3に示したように磁場のある場合、DO濃度は時間の経過につれて減少し、磁場のない場合よりも2mg/L低くなった.これは、液中でDOが反応により消費されていることを示唆している.今、DO濃度の減少について(2)式のような反応が関係しOH-が生成されるとすれば、(3)式等のOH-を消費する反応の反応速度との相対的大きさに影響されるが、液のpHは上昇すると考えられる.

溶媒の温度,溶存酸素(DO)、pH及び酸化還元電位(ORP)に対する磁場の影響
図−3 溶媒の温度,溶存酸素(DO)、
pH及び酸化還元電位(ORP)に対する磁場の影響

 また、千葉らは、3%NaCl溶液を使用して液のpH変化を測定し、初期のpH=6.5からおよそ8.0まで上昇したとしており12)、液のpHが上昇することは、本研究の結果も千葉らの結果と同様であるが、本研究のpH変化の大きさは千葉らに比べて大きく、Bushらの結果10)に相当していた.大きなpH変化が起きる一因として、千葉らの研究との実験条件の違いが考えられる.本研究やBushらの実験は流れ系であるが、千葉らの実験は容積60cm3の容器を使用しており、さらに、千葉らの実験では撹拌速度あるいは水流速なども示されていないけれども、このような実験装置の形式や水流速の違いによると考えられる.Bushらは流速およそ1.3m/sec、磁束密度150mTで数十mVの電位の変化と微少電流を測定している10).本研究は流速2.0m/secの流れ系で実験を行っており、ローレンツ効果により、(2)式のような酸素の還元反応が進行してOH-濃度が増加し、大きなpH変化が生じたと考えられた.

3.3 磁場による錆の変化のX線回折法による分析
3.3.1 磁気処理器を設置したプロセス

 磁気処理器を設置したRun1について、実験初期から95日まで、15日毎に試料を取り出して、内面の錆を剥離しX線回折法による分析を行った結果を図−4に示す.
 図に示したように、初期の錆成分のX線回折は、ヘマタイト(Fe2O3:〇)、水和酸化鉄(FeOOH:▽)のX 線回折パターンと一致していた.30日経過しても採取した錆のX線回折は、初期のヘマタイトなどのX線回折パターンとほぼ同様で変化は見られないが、45日経過後ではヘマタイトの特徴を示すピークは顕著に小さくなり、酸化鉄 (水和酸化鉄Fe2O3・nH2O)のピークはやや小さくなり、さらにマグネタイト(Fe3O4:■)の特徴を示すピークが見られた.さらに時間が経過するとヘマタイト、水和酸化鉄のピークは無くなり、90日後ではマグネタイトと全く同じX線回折パターンとなった。90日後の生成物は磁石に引き付き磁性を示した.
 マグネタイトは磁性を持つので、剥離させた錆成分について、マグネタイトを磁石で分離し、錆成分のヘマタイトとマグネタイトの重量割合の変化を見ると、図−4に示したように75日経過でおよそヘマタイト50%、マグネタイト50%であった。ヘマタイトからマグネタイトへの変換速度は、生成されるマグネタイト量の解析が必要で、今後さらに検討が必要である.

錆付き試料の磁気処理における錆組成変化(X線回折分析)
図−4 錆付き試料の磁気処理における錆組成変化(X線回折分析)


3.3.2 磁気処理器を設置しないプロセス
 磁気処理器を設置しないRun5においても実験初期から90日まで、15日毎に試料を取り出して、内面の錆を剥離しX線回折法による分析を行った.X線回折法による分析結果は、初期のX 線回折パターンはヘマタイト(Fe2O3)のX 線回折パターンと一致し、さらに90日経過してもX線回折パターンは初期と全く変わらなかった.

3.4 赤錆の黒錆への変化機構
 鉄の腐食は、局部で分極して形成される陰極と陽極の次の反応で進むことが知られている.
  Fe→Fe2++2e-           (1)
 1/2O2+H2O + 2e- →2OH-       (2) 
 Fe2+ +2OH−→Fe(OH)2         (3)
 4Fe(OH)2+2H20+O2→4Fe(OH)3         (4)
 Fe(OH)3は酸化第2鉄の水和物(Fe2O3・nH2O)即ち水和酸化鉄として沈殿して赤錆(ヘマタイト:Fe2O3)になる18).また、水和酸化鉄(FeOOH)の生成は、(5)式のようにも表される.
 4Fe2++O2+8OH−→4FeOOH+2H2O (5)
 赤錆(ヘマタイト)が磁気の作用でどのように黒錆(マグネタイト:Fe3O4)に変わって行くか、種々研究されているが、そのメカニズムは十分明らかにされていない.ヘマタイトからマグネタイトへの変化には種々の反応が考えられ、Bushらは水和酸化鉄の存在を示唆しており10)、千葉らは水和酸化鉄の次の反応によるマグネタイトの生成を示している12).

 Fe2++8FeOOH+2e-→3Fe3O4+4H20 (6)
   
 磁場が存在する場合、2価鉄イオンFe2+の3価鉄イオンFe3+への反応((7)式)は抑制され9)、11)、(6)式の反応が促進される12)結果として、溶液中のFe2+濃度は、磁場の無い場合に比べて低くなる12).

 O2+4H++4Fe2+→4Fe3++2H2O+e− (7)
 
 図−4に示したように、磁気処理した錆のX線回折結果は、付着した赤錆(ヘマタイト)は黒錆(マグネタイト)へ変換され、その過程において、Bushらや千葉らが推定しているように、中間生成物として水和酸化鉄が生成されており、ヘマタイトのマグネタイトへの変換には、(1)式から(6)式の反応が関係していると考えられる.
 3.1で述べたように、ヘマタイト(試薬特級)を浮遊させたスラリーの磁気処理(Run2)では、ヘマタイトのマグネタイトへの変換はまったく見られなかった.しかし、錆びた鉄管の表面から錆を剥離して得た微粒子を懸濁させたスラリーの磁気処理(Run4)では、ヘマタイトは時間の経過につれマグネタイトに変換された.Bushらは、磁気による防錆操作では、鉄(Fe2+)があることが重要としており、本実験結果も鉄(Fe2+)の重要性を示唆していると考えられた.
 腐食された鉄板では、Feの上にFeOOH(Fe2O3・H2O)が生成されているので、鉄(Fe2+)は(1)式の反応の他に(8)式17)、(9)式2)の反応と関連し、これらの反応と併行して錆の粒子内で(6)式のFeOOH(Fe2O3・H2O)の不動態化反応が進行し、ヘマタイトはマグネタイトへ変換されると考えられる.

 Fe2O3+6H++2e-→2Fe2++3H2O  (8)
 Fe+2Fe3+→3Fe2+     (9)
 Fe→Fe3++3e-       (10)
 
 上に示した反応の進行の妥当性は、電気化学反応の観点から検討できる.電気化学反応の観点から(1)、(2)、(7)、(8)、(10)式の反応の可能性を考えると、(1)式の標準電位は−0.44V、(2)式の標準電位は0.401V、(7)式は0.77V、(8)式の標準電位はpH=8.5では−0.43Vであり、さらに(10)式の標準電位は、−0.037Vである2).(2)式及び(7)式以外は、標準電位はマイナスであり、反応は進行しやすい.(2)式の標準電位はプラスであるが、図−3に示したように、液のpHの上昇及びDOの減少から可能なことがわかる.(7)式について、磁場のある場合は、Fe2+の酸化反応は抑制されるが、電子(e-)が供給されれば、標準電位はプラスであっても、Fe3+の還元反応は進行するとみられる。なお、‐0.44〜0.77Vの電位では、(9)式の反応は無触媒的に進行する2).       
 鉄酸化物についてFe-H2O系のPourbaixダイヤグラムのpH−電位では、pH=7.0〜8.5においてFe2O3、Fe3O4で安定な不動態域の電位はおよそ−0.6〜0.0Vで、−0.1V以下ではFe3O4であるので19)、図―3に示したような比較的pHの高い状態では(1)、(2).(6)〜(10)式の反応によるヘマタイトのマグネタイトへの変化は十分可能と考えられる.
 また、マグネタイトへの不動態化反応に必要なFe2+及び電子(e-)の生成反応の進行しやすさは、標準電位を比較することによりわかる.Fe2+生成反応の(1)、(7)、(8)式について、腐食を進める(1)式は、標準電位はマイナスで容易である.(8)式も標準電位はマイナスなので電子が供給されれば容易に進む.ただし、(1)式の反応による電子の供給を基に、(1)、(8)式による反応の進行を考えると、(1)式の反応の標準電位は‐0.44Vで、(8)式の反応の標準電位‐0.43Vより低いので、(1)式の反応で生成された電子を利用し(8)式によりFe2+の生成は可能であるが、過電圧の影響を考えると、(1)、(8)式によるFe2+の生成は困難と考えられる.また、(7)式の標準電位に比べて、(1)式の標準電位は非常に低いので、(1)、(7)式によるFe2+の生成は容易と考えられる.一方、電子(e-)は、(1)、(7)式で生成される.(1)式の反応は容易であるが、 (7)式の反応(Fe2+の酸化反応)は、磁場により抑制される9、11)ので、電子供給源の反応にはなりえないであろう.
 さて、腐食を進める(1)式が必要なFe2+及び電子(e-)を供給する主反応となり不動態化が進むのであれば、(9)式の無触媒反応と並行して、磁場のない場合でも容易に不動態化が進み、防錆できると考えられる.しかし、磁場のない場合、不動態化は進んでいないので、(1)式はFe2+及び電子(e-)を供給する主反応にはならないであろう.したがって、必要なFe2+及び電子(e-)を供給する反応として、(7)式〜(9)式が非常に重要と考えられる.
 磁場によるローレンツ効果は局所的分極に伴う電場や電流を生じ、Bush らは電場や電流を測定10)している。ローレンツ効果がヘマタイトのマグネタイトへの変換において、どのように影響するかは明確でないが、ローレンツ力により生じる電流が電子供給源となり、(2)式の反応を促進すると共に(7)式及び(8)式の反応を促進してFe2+を生成し、これらの反応が促進される結果として、(6)式により赤錆(ヘマタイト)が黒錆(マグネタイト)へ変わり、防錆が促進されていると考えられた.
 以上より、内面が赤錆で覆われた鉄管の磁場による閉塞の改善や防錆は、処理の初期には水和酸化鉄となった赤錆が水流により除去される.ローレンツ効果は(2)式及び(6)〜(8)式の反応を促進しており、腐食を進行させるDOを減少させると共に、表面に残留した赤錆(水和酸化鉄)は(6)〜(9)式の反応を経て不動態化され、より安定な黒錆に変換されていると考えられた.

4. 結論
 
 磁気処理による錆びた鉄パイプの脱錆・防錆に対して、赤錆(ヘマタイト)のマグネタイト(黒錆)への変化過程をX線回折による分析より検討し、磁気の脱錆・防錆効果について次の結果を得た.
1. 赤錆(ヘマタイト)は磁気処理により、(6)式〜(9)式の反応を経てマグネタイトへと変わり、その後の鉄板の腐食を防止する.なお、ヘマタイト微粒子のみを懸濁させたスラリーは、磁気処理によりマグネタイトへの変化はなく、Fe2+の存在が重要である.
2. ローレンツ効果は液中の溶存酸素濃度を減少させると共にpHを上昇させ、(7)式〜(9)式の反応によるFe2+の生成を促進させると共に、(6)式による赤錆(ヘマタイト)の黒錆への変化を促進させると考えられた.


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